Category | 東方永罪姫

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東方永罪姫 -プロローグ-

ある晴れた春の日、四人の少女たちは幻想郷の僻地ー永遠亭の前に集まっていた。
「ずいぶんと暖かくなって来たわね。暖かくなるとお腹が空くのよ。」
幽冥楼閣の亡霊少女ー
西行寺幽々子。
「あら、あなたは暖かろうが寒かろうがいつもお腹が空いてるじゃない。」
山坂と湖の権化ー
八坂神奈子。
「あなたは少し食べ過ぎる。なんでも食べるから栄養のバランスはなんとか取れているとは言えどもやはり食べ過ぎは良くないのであって、たまには健康的な食べ方をして見てはどうです?幽霊だから健康なんて関係ない?そんなことはありません!たとえ既に死し存在であっても、体調というのは霊力に大きく関係し…」
楽園の最高裁判長ー
四季映姫・ヤマザナドゥ。
「まあまあ、今日はお説教を聞きに来たんじゃないのだから…。」
永遠と須臾の罪人ー
蓬莱山輝夜。
そう、彼女らはお説教を聞きに来たのではなかった。
「そうですが…。しかし、あなたもあなたですよ?こうして今日ここに集まったのも元はと言えば、大昔にあなたが犯した罪が…」
「はいはいっ、そこまでっ!」
輝夜は映姫の言葉を遮り、言った。
「コホン、えー、今日ここに皆さんに集まって貰ったのは、前に言った通り、永琳のことで話があったからです。」
「あの子の薬は良く効くわね。前に食べ過ぎてお腹がを壊したとき…」
幽々子が口を挟む。
「永琳がどうしたの?」
神奈子は幽々子を抑えて続きを促す。
「永琳は…あの子は過去に囚われすぎている…。満月の夜には窓から月を見上げて祈っているわ。恐らく、罪を赦して下さいと…。
それだけじゃない。あの子が薬を作り、タダに近い値段で売っているのも贖罪のためだと思う。一人で罪を背負いこんでいるのよ。
そんな様子が可哀想で…。」
「でも、そうさせたのはあなたなのですよ。」
「わかっているわ。だけどどうしたらいいかわからなくて…。」
「だから私たちを呼んだってわけね。」
幽々子が真面目に切り返す。
「そう。」
四人の間に重い沈黙が流れる。

「でもさ」
沈黙を破ったのは神奈子だった。
「永琳があなたの罪をも背負うのはあなたを守るためでしょう?だから、深く思い詰めるのは良くないと思う。そんなこと望んでいないわ。永琳は、あなたが幸せで、笑っていてくれさえすればいいのだと思うわ。」
神奈子は輝夜を見据えてそう言った。
「そう…かな?」
「きっとそうよ。」
輝夜は微笑んだ。
「そうね。…ありがとう、なんだかスッキリしたような気がする。」
そう言って、輝夜は永遠亭へと消えた。

「…映姫様。」
「なんですか?」
「永琳の罪は、どの程度なんでしょう。」
神奈子は聞いた。
「わかりません。」
いやにはっきりとした口調で映姫は言った。
「私の能力を使ってでも白黒付けられないのです。恐らく、そのようにはっきりと分けられるものではないのでしょう。」
「そうですか。」
神奈子も深くは問わなかった。
「さっき神奈子が言ったように、普通に過ごせばいいってことね。」
幽々子は言った。
「そうですね。」
そして、三人は別れた。

映姫は嘘を吐いていた。白か黒かはついていた。ただ、彼女にはそれを口にすることが酷だった…。

そして、竹林の陰で総てを聞いていた者はニヤリと笑うと、林の奥へと消えて行った。
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東方永罪姫 -1.平和な日々-

「ふあぁ~あ。暇ね…。」
「そうですねぇ。」
輝夜は永遠亭の縁側に座って永琳とお茶を飲んでいた。
「てゐも鈴仙も出かけてるし、誰か来ないかな~。」
そう言った矢先、霊夢と魔理沙が騒ぎながらやって来た。
「てゐはどこだー!家の前に落とし穴なんか掘りやがってー!」
「お賽銭箱壊したのもあなたでしょう!出て来なさい!」
愉快な人たちね、とくすくす笑いながら永琳は立ち上がって、玄関へ向かった。
「永琳は元気そうね。やっぱり私の杞憂だったのね…。」
輝夜はほっと息を吐いた。
「てゐなら出かけてるわよ。」
「ええっ!そーなのかー!?」
霊夢と魔理沙は同時に叫んだ。本当に愉快な人たちだ。
「どう?お茶でも飲んでいかない?姫も暇してるのよ。」
「おう、悪いな。上がるぜ。」
「うちのお茶より美味しいかしら?」
ドタドタと二人がやって来た。
「着替えなきゃ、ね。」
ジャージ姿の輝夜はおもむろに目を瞑り、精神を集中させた。須臾を集める能力を使っているのだ。集めた須臾で出来た時間は彼女だけの時間である。
ある程度須臾が集まると、輝夜はそれを放出した。そして、自分の部屋へと着替えに行った。

「よう、輝夜。」
「久しぶりね。相変わらず家に籠っているのねぇ。」
「まあね。」
永夜異変から三ヶ月経った今、霊夢も魔理沙も良い友達だった。しかし、永遠亭の立地上途中で妖怪に絡まれずに来るのは難しく、大抵霊夢たちは妖怪退治で夕方になってしまうようだ。
「またてゐが何かやらかしたのね。」
「そうなんだ!今日の朝、キノコ採りに行こうと家を出たら、地面がなんだか不自然でさ。こりゃあ落とし穴だと思って飛び越したらその先に落とし穴があったんだ。てゐも粋なことしてくれるよな。」
「ふふっ、てゐがそんなわかりやすい落とし穴作るわけないわよ。あの子なら不自然さを残さないわ。」
「いつも罠に掛かってる輝夜にはわかるのね。」
霊夢がそういうと、三人はあはははっと笑った。
「…それで、キノコは採れたの?」
「ん?ああ、そうだ!見たこともないのが採れたんだ。」
魔理沙はとんがり帽子からキノコを取り出した。かさの部分があまりなく、独特な香りがしている。
「不思議な形ね。」
「魔理沙が採って来たキノコはろくでもないのばっかりなのよね。この前のは食べたら体が大きくなって、神社が壊れたんだから。直すのが大変だったわ。」
「それは神社がボロいのが悪いんだろ。…なあ、輝夜。これ食って見ないか?」
「厭よ。ろくでもないキノコかもしれないでしょ?」
「まあ、いいじゃないか。死にはしないんだから。いい匂いもするし。」
魔理沙はニコニコしながら言った。
「…そうね。じゃあ食べてみるわ。」
輝夜はそう言って、そのキノコを少し齧った。
「どう?体はおかしくない?おかしかったら『金閣寺の一枚天井』で魔理沙を潰しちゃっていいからね。」
「酷いな、霊夢。…で、キノコはどうだ?」
「…美味しいわ。」
「本当か?」
「この独特な香りがとてもいいわ。焼いたらもっといいかもしれないね。」
「魔理沙、このキノコもっとないの?」
霊夢の目が光る。
「まだ結構生えてたと思うけど。」
「採りに行くわよ!じゃあね、輝夜。また来るわ!」
霊夢は玄関へ飛んで行った。魔理沙も後からついて行く。
「あいつ、どうせまた妖怪に売りつけるつもりだぜ。法外な値段でな。」
「霊夢らしいわね。」
輝夜はあはは、と笑った。
「じゃあな!お茶、美味しかったぜ。」

輝夜は手を振りながら思った。
「死にはしない、か…。」
ため息をついて、キノコを齧る。なぜかキノコからは、季節外れの秋の哀愁が感じられた。今度永琳と採りに行って、焼いて食べようと思うのだった。
「霊夢が全部持って行っちゃうかもね…。」
ウグイスがホーホケキョ、と鳴いた。

東方永罪姫 -2.休暇-

「ねえ、永琳?昨日は何時に寝たの?」
「え、ええっと…確か…。」
「寝てないわよね?」
「い、いや…そんなこと…ないですよ?」
「じゃあ、何で私が起きたとき、常夜灯がつけっ放しだったのかしら?あなたいつも消すでしょう?」
「それはたまたまで…。」
「そのたまたまが何日も続くわけないじゃない。ここの所、ずっとそうよ?あくびばっかりしてるし。」
「うっ…。」
明らかに永琳の敗勢だった。
「やっぱりそうなのね。働き過ぎは体に良くないわ。休暇を取りましょう。」
「きゅ…休暇ですって?」
輝夜はニコニコして言った。
「そうよ。今年はまだ春だっていうのに、ひまわりが綺麗に咲いているらしいの。だから、永琳に行ってもらおうと思って。」
「姫は行かないんですか?」
「私は永遠亭の番をしてるわ。『永琳は休暇で居ません』って言うだけだけどね。」
「ダメですよ。その間姫が危ない目にでもあったら…。」
「私ももう子供じゃないわ。それに、てゐも鈴仙もいるし。大丈夫よ。」
「でも…。」
「あら、」
輝夜は永琳に顔を近づけて言った。
「主人に歯向かうなんてあなたらしくないわねぇ。」
「いや、あの、そういうわけじゃ…。」
「いいのかな~?」
「な、何がですか?」
「…あのこと、みんなにバラすわよ。」
「あのこと…?」
輝夜の顔にいつにない鋭さが浮かんだ。口元に冷酷な笑みを浮かべている。そして、永琳の顎を指で持ち上げ、言った。
「そう、あのこと、だよ?いいの?」
「…。」
そして、永琳の額を指で弾くと、明るく言った。
「月に居た頃、あなた『惚れ薬』を作ろうとしたでしょ!」
永琳の頬にサッと赤みが差す。
「だ、誰がそんなこと言ったんですか!」
「ふふん、爺から聞いたのよ。『あんたの従者が惚れ薬作ってる』って。相手は誰だったの?」
「もうその話はいいですっ!わかりましたよ、休暇を取ります…。」
「やったー!」
「何で姫が喜ぶんですか。ちゃんと永遠亭に居て下さいよ?」
「うぐ…わかってるわよ。」
輝夜は鼻歌交じりに自分の部屋へ戻って行った。

「まさか、違うわよね…。」
永琳はまだ、「あのこと」が引っかかっていた。
「もう今更、掘り返す必要はないものね。それに、姫がそんなことを言うわけがない。自分でも、辛さを感じているはず…。」
それでもやっぱり、鋭い目と、冷酷な笑みが頭に残っていた。
「もう忘れよう!明日は休暇よ!さあて、晩御飯の支度をしなくちゃね。」
永琳は野菜を刻み始めた。知らぬ内に、鼻歌交じりになっていた。
「姫も『かごめかごめ』だったわね。懐かしい…。」
歌詞を口ずさむ。

かごめかごめ
かごのなかのとりは
いついつでやる
よあけのばんに
つるとかめがすべった
うしろのしょうめん
だあれ

「あれ…?」
永琳は歌詞に違和感を感じた。
「そう言えば、不思議な歌詞よね…。意味が繋がってないような…。」
永琳は歌詞の意味を考えた。
「夜明けの晩っておかしいわね。どういう意味かしら?」
他愛もない疑問を永琳は口にした。
「まあ、どうでもいいか!」
そして、鼻歌を続けた。
永琳は他の歌詞のことは特に深く考えなかった。と言うより、

考えることを身体が拒絶していた。

東方永罪姫 -3.輝夜の企み-

「姫!起きて下さい!」
「あと…五分…ムニャムニャ…」
「何言ってるんですか。そろそろ私は出かけますよ?」
輝夜は不機嫌そうな顔をして起き上がった。
「ああ、そう。いってらっしゃい。」
「カギをちゃんと閉めて下さいね。誰かが来ても姫が開けないで、てゐか鈴仙に行かせて下さい。ご飯は用意してありますからしっかり食べるんですよ?あと外出はなるべくしないこと。どうしても用があるときは鈴仙たちを連れて行って下さい。それから…」
まだ続けようとする永琳の口に輝夜は指を当てた。
「もういいわ。私なら大丈夫だから、あなたは気にせず楽しんでいらっしゃい。」
「…。」
永琳は何か言いたげな様子だったが、わかりました、と言って玄関へ向かった。
「では、行って来ます。」
「いってらっしゃい!」
てゐ、鈴仙、輝夜は仲良く三人でそう言った。

永琳が永遠亭を出てしばらく経ったころ。
「…行くわよ、てゐ、鈴仙。」
「…はい。」
「わかった。」
三人は永遠亭を出た。そして竹林の中を歩き始める。嫌な沈黙だった。
不意にホーホケキョ、とウグイスが鳴いた。ふふっ、と輝夜が小さく笑う。つられててゐも鈴仙も笑い出した。
「なんで笑ってるんでしょうね。」
「さあ…。でも黙る必要もないんじゃない?三人でだんまりなんて、なんだかこれから悪いことするみたいで嫌だわ。パーティーなのに。」
「そうですね、師匠をびっくりさせないと。」
三人はパーティーをしようと考えていた。やはり輝夜は永琳のことが気にかかっていた。休暇を取らせたのもそのためだった。
「そういえば、」
輝夜が切り出す。
「パーティーなんだから、やましいことは先にどうにかしないとね…。
まだ話してなかったわよね?私の口からは。」
鈴仙の顔が強張る。
「…なんのことでしょう、姫様?」
「とぼけるのはやめなさい。知っているでしょう?誰から聞いたのかは知らないけれど、あなたがそのことを知っているのは分かるのよ、永遠を生きる私には。」
「…。」
「…私は月に居た頃、毎日が退屈だった。朝起きて、詩を習わされ、貴族と戯れ、豪華なご飯を食べ、寝る。ずっとそれが繰り返された。そんな生活の中で、唯一楽しみだったのが、月の花を見ることだったの。」
鈴仙が言った。
「月の花って、たしか満月の夜にだけ咲くあれですよね。」
「ええ、そうよ。幻想的に光るあの花は、地上の花とは違った美しさを持っていた…。
でも、本当はそれだけが楽しみだったわけじゃない。」
「どういうことですか?」
「私が本当に楽しみだったのは、その花を永琳と一緒に見ることだた。永琳は月の民の中でただ一人、私を姫としてではなく、一人の人間としてみてくれたの。
永琳は色々な薬を見せてくれ、一緒に薬の材料を採りに行ったりした。そのとき、私に言ったの。どうしても作れない薬がある、って。
それが蓬莱の薬だった。飲めば不老不死になる薬。その薬は、私の力…永遠を操る力が必要だった。
そのとき、馬鹿な私は言ったの。力を貸すから蓬莱の薬を作って欲しい、って。当然永琳は止めたわ。蓬莱の薬を飲めば地上に堕とされるからね。そこで、飲まないから作るだけと、私は言った。永琳はしぶしぶ承諾して、作ってくれたわ。そして、永琳が目をそらしている隙に私はその薬を飲んだ。別に永遠の命が欲しかったわけじゃない。退屈な月を出て地上に行きたかったの。当然月の民は私を罰したわ。地上の竹に私は封じられた。
でもね、その封印は解かれた。親切な二人の人間…竹取の翁と媼が私を竹から助け、育ててくれた。
すくすくと成長した私に結婚を申し込む人がいた。でも、何時かは月に戻らなければならない、翁たちと別れなければならない、と感じる様になっていたから、私は何事にも無関心になって、難題で追い返してしまった。そんな私なのに、翁たちは優しかった。」
輝夜の目に涙が浮かんだ。
「そして、月の使者が迎えに来る日がやって来た。私の罪が赦される日…。
しかし、私は更なる罪を犯した。迎えに来た月の使者を殺したの。永琳と一緒にね。永琳は言ったわ。『私はあなたの盾となり、剣となる。あなたを不幸から守り、打ち克つ。だから泣かないで』と。
竹取の翁と媼に迷惑を掛けない様に、私たちは人里を離れ、逃げ暮らした。永遠に赦されぬ罪を背負ってね。」
輝夜の頬に涙が伝う。
「でも今は幸せ。てゐにも鈴仙にも出会えたし、キッカケは不純だけど、幻想郷のみんなにも出会えた。永琳もそう感じているはず…。」
輝夜は涙を拭う。
「なのに、永琳は純粋に幸せを感じられていないわ。満月が近づくと特に。変でしょう?だから私は思うのよ。おそらく永琳は、別の罪を背負っている…」
「もういい。」
てゐが言う。
「そして今日は満月とちょうど重なる日…」
「だからもういいって!」
てゐが強く言う。輝夜はビクリとした。
「そんなの輝夜の考え過ぎだよ!あの優しい永琳がそんなことするわけない!だから、もうやめてよ…。」
「そうね…。今日はパーティーなのにこんな話をして…私が悪かったわ。ごめんなさい…。でも、やっぱり話すべきだと思ったのよ。隠し事は良くないわ。」
「…いいよ。もう。」
てゐはずんずんと歩き出した。鈴仙がその後を追いかける。

「でも、今日はその日だってことは変わらない…。」
輝夜も歩き出した。

何処かでかごめかごめをしている声が聞こえた。
もう、ウグイスは鳴かない…

東方永罪姫 -4.パーティー-

輝夜たちは幽々子、神奈子、映姫を呼んで永遠亭へ戻って来た。
「さて、パーティーの準備をするわよ!」
輝夜は明るく言った。
「騙すようなやり方は、賛同しかねますね。」
「うっ…で、でも永琳も多分楽しめると思うし…。」
「いくら彼女のためと言えども、やはり騙すのは良くないですね。もっと方法はあったでしょう?だいたい、あなたは少し無鉄砲過ぎる。なんでも思いついたことを深く考えず実行し、その行動力は認めますが失敗することが多いというのは頂けません。それに…。」
「誰か止めなさいよ…。」
幽々子が小声で言った。
「輝夜、あなたのことなんだから自分でなんとかしなさい…。」
「わ、分かったわよ!てゐ、鈴せ…あれ!?」
てゐも鈴仙も何時の間にか何処かへ消えていた。
「ううっ、無理よ。私では止められないわ。」
「得意の難題でどうにかできないの?」
「もう思いつかないわ。『金閣寺の一枚天井』が限界…。」
そして、映姫の話はほか二人にも飛び火し、三人は一時間こってりと絞られたのだった。

「綺麗な花ね…。」
永琳は一面に広がる花を見て言った。屈み込み、一輪の花に手を触れる。
「あら、お客さんかしら。それともお花泥棒?」
後ろから声を掛けられる。
「観光に来たのよ。」
永琳は振り向き、言った。そこには、日傘をもった満面笑顔の風見幽香がいた。いつも薬の材料を調達してくれる彼女が笑っているときはあまりいいことがない。
「久し振りね、永琳。」
「そうね、冬の間は薬の材料が足りていたから。」
永琳はまた花に目をやる。背中に強い視線を感じる。永琳が花を手折るのを待っているのだろう。そして花を手折れば、きっとわざとらしく怒り「いざ勝負!」などと言ってくるのは目に見えていた。
「私は花を見るだけ。持ち帰りはしないわ。花は咲いてるからこそ美しい。そうでしょ?」
「ああ、まあ、そうね…。」
見ずとも幽香が動揺しているのが分かった。
「そう言えば、季節外れのひまわりが咲いてるって聞いたんだけど。」
「それならあっちに咲いてるわ。」
幽香はぶっきらぼうに言った。仏頂面をしている。
「別に私が咲かせたわけじゃない。勝手に生えたのよ。夕方になるとみんな同じ方を向いてるのが不気味に見えてしょうがないわ。」
その大きな花は太陽の光をたっぷり受けて、生き生きと咲いていた。
「家でお茶でも飲んで行きなさいよ。」
なんだか幽香の機嫌がいいようだった。

「…妖夢。」
幽々子が呼ぶと妖夢は現れた。
「…早苗、諏訪子。」
神奈子の声に二人も現れる。
「…小町。」
映姫の声に小町がすかさずやって来る。
「…てゐ、鈴仙。」
輝夜は二人を呼び戻す。そして、言った。
「永遠のうちの須臾…一瞬の今夜を楽しみましょう!」

東方永罪姫 -5.大集合!-

「妖夢、お腹空いたわ。」
「我慢して下さいよ。今夜はパーティーです。」
「無理無理、なんかないの?」
「何もないですよ…。」

「小町!あなたはこういう楽しいときだけサッと現れて!まったくあなたは少し不真面目過ぎる。普段から私が呼んだらすぐに来るようにしなさい。」
「はいはい。
「…。」
「…お説教は終わりですかい?映姫様?」
「…ほかに話すことがないのです。」
「おっと珍しいですねぇ~。話すことがないとは。どうしたんですか~?パーティーで浮かれてるんですか?」
「…。」

「神奈子~!なんでこんなとこにいたの~?」
「幻想郷のお偉いさん方に呼ばれたんだよ。紫がいなかったけどねえ。」
「なんで神奈子が呼ばれたんだろ?まあ、でも、どうせ足でまといなんでしょ?」
「そんなことないわよ。」
「そうですよ、諏訪子様。神奈子様も一応山の神様なんですからね。」
「一応って何よ、一応って!」

ワイワイガヤガヤピチューンと永遠亭の前は大騒ぎだった。
「うるさいですね。どうします?姫様。」
青筋を立てた輝夜は袂からスペルカードを取り出した。
「…超絶難題『男は黙って金閣寺』!」
Pアイテムがそこら中に散らばった。

「なんであんた達が居るのよ!?今日はメディが来るって言うのに…ああっ、なんで勝手に食べてんの!旧作メンバーのクセに!」
「お邪魔してるよー幽香。」
「暇で暇で仕方なかったのよ。」
魅魔と神綺が言った。
「あら、その子はお友達かい?」
「…永琳よ。八意永琳。薬作りに関しては天才で、私は材料を提供してるのよ。」
「初めまして。」
永琳は軽く会釈をする。
「わたしゃ、魅魔だよ。よろしく。」
「神綺です。魔界をまとめてる者よ。」
「魔界…?」
「あっ、あんまり気にしなくていいわよ永琳。所詮旧作の戯言だからね。」
どうやら幽香は魅魔たちのことが気に入らないようだった。
「あんたも旧作でし…」
「うるさい!とりあえず、出て行けー!」
「はいはい、お邪魔しました~。」
「またね、幽香、永琳。」
そう言って二人は出て行った。
「やけに素直ね。気味が悪いわ。」
「いいの?追い出しちゃって。」
「いつものことだからね。」
言いながら幽香はお茶の準備を始める。永琳はふと窓の外を見た。ひまわりが傾きかけた太陽の方を向いている。昼間は輝いていたのに、西日を受けたひまわりは、なんだか薄気味悪かった。

「小町。お願いね。」
「はいよっと。」
小町が鎌を握り、何度か振ると永遠亭の前が数倍にも広がった。
「ありがとう!」
「いいってことよ、姫さん。」
小町はニカリと笑った。
「さて、そろそろ紅魔館から椅子とテーブルが来る頃だけど…あっ、来た!」
美鈴が数十個の椅子とテーブルを片手で運んで来た。皆唖然としている。
「よいしょ!ふう~重かった~。」
「あ、ありがとう…。」
「そんじゃ、後でメイド長と来るわ。じゃあね!」
風のようにやって来て、風のように去って行った美鈴だった。
「…じゃ、じゃあ料理の準備をしましょうか…?」

東方永罪姫 -6.闇夜の舞踏会-

「よしっ!準備出来た!」
輝夜は「いつもありがとう!永琳!」と書かれた幕を付けると言った。
「永琳を呼ばなきゃね…てゐ、鈴仙、行って来なさい。」
「分かりました。」
二人は走って行った。
「文!」
「何ですか?」
「残りのみんなを呼んで来てくれないかしら?」
「いいですけど、地底とか空飛ぶ舟までは無理ですよ?」
「できる限りでいいわ。よろしくね。」
言い終わる頃には既に文の姿はなかった。
「暗くなって来たわ…。月が明るいから文なら大丈夫よね。」

「暗くなって来たわ。そろそろ永遠亭に帰らないと。」
永琳は窓の外を見ながら言った。
「あら、そう。」
「今日はありがとう!楽しかったわ。」
「本当はメディが来るはずだったんだけれど…残念だわ。」
「そうね…メディにはよろしく伝えておいてくれる?」
「分かったわ。」
「じゃあ。」
永琳は幽香の家を出た。
「あなた、歩いて帰るつもり?」
幽香が呼び止める。
「そうよ。」
「遅くなったら輝夜が可哀想よ。今頃『助けて、えーりん!』なんて言ってるんじゃない?私が送って行くわ。」
「ありがとう。」
幽香は永琳の手を取り、日傘でふわりと浮いた。

「誰も気付かないのね。歪な月に。」
少女は空を見て呟く。
「今夜は前の異変とは一味違う。私の作る異変は完全よ。」
ニヤリと笑い、言う。
「あなたに解けるかしら。私の難題を。」
少女は歩き出す。
「さあ、舞いなさい!罪人よ!」
そして、夜闇へと消えた。

東方永罪姫 -7.襲来-

文の呼びかけで徐々に皆が集まり出した。
「後は永琳だけね。」
輝夜は呟く。
そのときだった。
一本の矢が飛んで来たのは。
輝夜は矢を地面から引き抜き、くくりつけられた手紙を開いた。

迎えに来ましたよ?姫様。

短くそう書かれた文字には見覚えがあった。整った美麗な字。
月の爺のものだった。
輝夜は目を見張り、手紙を持った手が震え出した。
「迎えに来る…?」
とっさに輝夜は危険を感じた。空を仰ぎ見ると、月の形が歪だった。
「まずい…!」
突然、上空から矢が雨のように降ってきた。
「二重結界!」
霊夢が素早く結界を張る。だが、皆混乱していて襲撃に対応出来なかった。
「仕方ないわ…。難題『仏の…」
「おおっと姫さん、まだあんたの出る幕じゃないぜ!恋符『マスタースパーク』!」
魔理沙が必殺のスペルカードを使う。それによってだいぶ矢の量は減った。
「何が起こってるのよ!?説明しなさい!」
霊夢が叫ぶ。
「私にもさっぱり分からないわ…。何故今更私を…?」
「まあいい、取り敢えず攻撃すりゃあいいんだろ?行って来るぜ!」
魔理沙が矢の飛んで来た方へ飛ぶ。混乱も徐々に収まり、皆の攻撃がまとまって来た。

輝夜たちが攻勢に転じた頃、突如として巨大なロボットが現れた。ロボットは周囲を焼き払い、木々を踏み潰して行った。
「くそっ、何だあれは!」
魔理沙が叫ぶ。さすがのマスタースパークも効かないようだった。
「取り敢えず火を消さなきゃね…。諏訪子!」
「うん!行っくよ~!土着神『ケロちゃん風雨に負けず』!あ~う~☆」
何処からともなく水が現れ、あっという間に火を消してしまった。
しかし、ロボットは徐々に近づいて来る。
「目には目を、歯には歯を、機械にはエンジニアだよ!」
にとりがそう言って走って行った。しばらくすると、ロボットは動かなくなった。
「後で持って帰ろっと!」
早苗がのんびり言った。

「ふう~。」
仲間の力でどうにか乗り切った輝夜はほっと息を吐いた。
「後は余裕ね…わわっ!?」
突然、輝夜の足元が消え、穴となって落ちて行った。

東方永罪姫 -8.月の爺-

落ちた先は、どこか見覚えのある場所だった。どこまでも続く竹林。ひっそりと建つ一軒の家。
そこはまさに、輝夜が地上に堕とされた場所であった。
「ふっふっふっ、姫もなかなかやりますな。」
突然、月の爺と使者たちが現れた。
「…なんのことかしら?」
「あの量の矢を食い止め、ロボットまでも止めるとは。なかなかのものです。」
「あれは私の仲間がやってくれたのよ。私じゃない。」
「いいえ、何も考えずここをフラフラ歩いていることが、ですよ。」
爺はニヤニヤ笑いを顔に貼り付けたまま言った。
「連れ戻しに来ました。」
「何故今更私を?私はもう立派な罪人よ?」
「…月はもう昔とは違います。地上に堕とす罰などありません。誰かさんのように地上で苦しまず、むしろヘラヘラ裕福に暮らしてもらっちゃ困りますからね。」
「答えになってないわ。私はあなたたちが私を連れ戻しに来た理由を聞いているの。」
「月にも罪人が増えました…愚かな者たちが。盗み、殺し、暴力、金…月の民だというのに欲の多い者が多過ぎ…」
「私の質問に答えなさい!」
「おやおや、地上に住むようになってから大きくなったのは穢れだけではないのですね。随分と態度が大きくなったようです。
いいでしょう、話します。もちろん、私たちの目的はあなたの能力…永遠と須臾を操る力です。蓬莱の薬を作るため。何故かって?ふふっ、罪人たちには永遠の罪、そして輪廻転生から外される苦しみを味わってもらうためですよ。
あなたには分かるでしょう?その苦しさが。」
「…薬を作れるのは永琳だけのはずよ…。」
「優秀な薬師はいくらでもいます。あんな下衆女はもう必要ありません。あの女が犯した罪をあなたも知っているでしょう。」
「月の使者を殺したのは私も同じ…。」
「しらばっくれるのは良くないですよ?そんなことではありません。」
輝夜の手が震え出した。
「知らないわ…私は知らない…」
「そうですか。では私が話せば思い出すでしょう。
…あれはあなたの罪が赦されるはずだった日のことです。あなたと永琳は使者を殺して竹林へと逃げ込んで行きましたね。その後、永琳だけが一度後戻りしたはずです。竹取の翁と媼を殺害するために。逃げた姫の行方をくらますためには、様子を見ていた二人も殺す必要があったのでしょうね。そして、罪無き二人は言いました。
『私たちのは蓬莱の薬など要りません。輝夜さえ居てくれればそれでいいのです。だからどうか輝夜を返して下さい。』
と。
あなたは返り血の増えた永琳をあの日に見ているはずなのです。」
「違う…違う…永琳はそんな人じゃない…嘘だ…嘘だッ…」
輝夜の目には涙が溢れていた。
「では、そろそろ行きましょうか。」
「…嫌。」
「まだ犠牲を出したいと言うのですか?」
爺は懐から水晶を出した。輝夜が覗き込むと、そこに映ったのは…
倒れている幻想郷の仲間たちだった。
「さあ、それでも拒むのですか?」
輝夜は静かに言った。
「…最後の私の難題を聞いて。」
「なんでしょう?今まであなたが言って来たものは全て用意してありますよ?」
輝夜は首を振ると、言い放った。
「…私を…殺して。」
爺の顔が強張るのが分かった。
「蓬莱人となったあなたは不死の存在。問題が成り立っていませんですぞ。」
「関係ないわ。復活しようとなんだろうと、私を殺してくれればそれでいいの。」
「そうですか。では、私が。」
そう言って爺は弓に矢をあてがった。そして、きりきりと絞り、思い切り矢を放った。

東方永罪姫 -9.黒幕-

永琳はレイセン二号と対峙していた。狂気の紅眼は、効かない。
ふいにレイセンが動いた。合わせて永琳も動き出す。
「さあ、かかって来なさい!」
永琳は言った。しかし、レイセンは何もしてこない。
「ならこっちから行くわよ!」
さっと弾幕を展開する。攻撃の標準を合わせると、一気に弾を放った。レイセンは巧みにそれを避けると、身体中に装備した銃を永琳に目掛けて打った。
ふっ、とレイセンと目が合う。その目は相変わらず紅いままだったが、その奥に哀しみが宿っているのを見た。まるで、戦いを嫌がるようだった。
永琳は弾を避けるのをやめ、ゆっくりとレイセンに近づいた。近づくなとばかりに乱射する銃弾を受けながら。
「もういいわ。」
弾が切れ、途方に暮れたレイセンの頭に手を載せる。永琳を見据える紅い目は全て哀しみへと変わっていた。
「もうあなたは戦う必要なんてない。無理しちゃだめじゃない。」
涙をいっぱいに溜めたレイセンが口を開いたとき。
「あら、もう終わり?つまらないわね。」
八雲紫だった。
「この子は戦うつもりなんて最初からなかった。私はそう思う。」
「あら、そう。」
「全てはあなたの計画なんでしょう?」
「なぜ、そう思うの?」
「事が上手く運び過ぎているから。『この日』に月の民が襲って来て、しかも私が輝夜の側にいない。こんなチャンス、計画しなければ訪れないわ。そして、ここまで綿密に作り上げられるのは、境界を操るあなたくらいしかいない。」
「ふん、随分察しがいいのね。で、どうするつもり?いまから。」
「あなたには死んでもらう。」
「物騒な言葉を口にして。月の頭脳とまで呼ばれた者が、堕ちたものね…。これもあなたの姫様のためかしら?」
「あの子のためなら私は何度だって堕ちて見せる。」
永琳は弓をキリキリと絞った。と、紫が歌い出した。
「かごめかごめ
かごのなかの
とりは
いついつでやる
よあけのばんに
つるとかめがすべった
うしろのしょうめんだあれ
…あなたの姫様が好きな歌ね。」
「…それがどうしたのよ。」
「何も知らないのね。いいわ、教えてあげる。かごめかごめはね…

籠目籠目
籠の中の鳥は
いついつ出遣る
夜明けの晩に
鶴と亀が滑った
後ろの正面だあれ

分かるでしょう?「籠目」は六芒星。つまり結界を表す。「籠」は幻想郷のことね。夜明けの晩、これは月が明るくて、夜明けのような晩。鶴も亀も縁起のいい生き物で、それが滑る。

結界で囲まれた幻想郷。その中にいる『鳥』はいつ出てくるのでしょうか。月の明るい晩に不吉なことは起こります。
振り向きなさい。
そこにあなたを断罪へ導く人がいる…。」
「輝夜はどこ?」
「姫様の心配なんかしてないで自分の心配したらどう?断罪は目の前にあるわよ。永遠の命を持つあなたは永遠に贖罪をすることになる。」
「私のことなど関係ない。輝夜がどこにいるのか知りたいの!」
「永遠の苦しみから逃げない…?」
「…輝夜が助かるなら。」
「姫様のためならなんでもするのね。」
紫は口だけで笑った。
「でも、それは本当にあの子の幸せかしら?」
「…どういうこと?」
「輝夜はパーティーの準備をしていたわ。…あなたのね。あの子は満月の度にあなたが祈っているのを知っている。だから、翁が死んだ日と満月が重なる今日、少しでも笑っていて欲しいから、幸せでいて欲しいから、みんなで協力して計画を立てた。
全てはあなたのため。輝夜のために苦しむのなんてあの子のためにならない。」
紫は永琳に歩み寄った。
「あなたも輝夜も『籠の中の鳥』。いつも月の民はあなた達を連れ戻そうとしている。
それに気付いて欲しかったから、結界を緩めた。それは同時に、月の民が襲ってこない日々の幸せを感じて欲しかった意味もある。結界がある限り、あなた達は守られる。いつまでも過去にとらわれていないで純粋に毎日を楽しんで欲しい。そう思うの。」
永琳は黙っていた。
「あなたは爺に会ったら理性を失うかもしれない。だから、ここで眠っていてもらうわ。」
指をパチンと鳴らすと、永琳の意識は飛んでいた。
「…訂正があったわ。振り返った先にいるのは断罪へ導く者じゃない。」
紫はスキマを開いた。
「現実へ導く者、よ。」

東方永罪姫 -10.失ったモノ-

爺の放った矢が一直線に輝夜を狙う。そして、貫こうとしたそのとき矢は何かに呑まれるようにして消えた。
「何…?」
「久しぶりね、爺さん。」
「あんたは…。」
輝夜の前に開いたスキマから紫がヌッと現れた。
「一体何のつもりですか?輝夜は私が連れ戻しますよ。」
「もうその必要はないわ。」
「…!?」
爺は呆気にとられていた。
「私たちの負け。輝夜は月には戻れないわ。永琳のいる限り。」
「あやつはあんたが始末するはずだったと思いますが。レイセン二号も配備したはずです。」
「見事に失敗よ。だからもういいわ。」
「ならば仕方がないでしょう…。」
爺が鈴を鳴らすと、どこからともなく月の民が現れた。
「姫を連れ帰りなさい。」
無言で月の民たちは輝夜の方へ向かう。しかし、紫は彼らをスキマ送りにしてしまった。
「くっ…まだ終わらせませんよ…?」
そう言って、爺は消えた。

「紫…」
「なによ?」
「…私は月へ行くわ。」
「…どうせ、『永琳のため』でしょうね?」
「あの子は私の知らないもう一つの大きな罪を犯した。さらに私の分まで背負い込もうとしてる。だから、私は月へ行って、その罪を減らすわ…。」
「あなたたち、面白いわね。どちらも相手を助けようとして、自分を犠牲にしようとする。
でもわかってるかしら?一番苦しいのは、罪を背負うことなんかじゃない。」
紫は言葉を切った。
「仲間を失うことだってこと。
あなたたちはいつも一緒にいるから分からなくなっているのよ。側にいるのが当たり前になってる。だから簡単に自分を犠牲に相手を助けようとする。」
「そう…かな?」
「そうよ。あなたは失ったことがないからわからないだろうけどね。」
紫は遠い目をして言った。
「紫…あなたは失ったことがあ…」
紫は輝夜を遮った。
「さあて、後片付けをしなきゃね。あなたのお爺様がお土産を残して行ったわよ?」
そう言って、紫は空を指差した。
「そうね。」
「行くわよ!」
二人は走り出した。
空に浮かぶ紅色をした月が、不気味だった。

東方永罪姫 -11.消失-

開けたところへ来ると、二人は足を止めた。
「私は、何をすればいいの?」
輝夜は紫に問いかけた。
「その前に、聞いておきたいことはないかしら?」
「聞いておきたいこと…?
そうだ、みんなは?みんなはどうなったの?爺の水晶には倒れた姿が映っていたけれど…。」
「あれは『幻想玉』よ。見た者を不安にさせるようなものを映し出すの。大丈夫、みんなは無事。まだ闘っているだろうけどね。」
「みんなが闘ってるなら、私たちも早くしなきゃ!質問はもうないわ!」
「ふふっ、せっかちね。」
紫は笑った。しかし、どこか哀しげだった。
「今見えている月は偽りの月。止めなきゃ夜明けまでには衝突するわ。だからあれを止める必要があるの。でももう時間がない。だからあなたの力が必要なの。
簡単なことよ?須臾を集めて時間遅延を起こして、その須臾を私にぶつければ私の時間の進み方は早くなる。これなら間に合うと思うの。」
「でも、そんなことしたら…!」
「消えるのは一人で充分よ。」
須臾を集め、他のものへ与えることによって与えられたものの時間の進み方を早めることができる。確かに便利な技術ではあるが、時間が早まることによって「存在するべき場所」を失う。つまり、消えてしまうのだ。
「でも…。」
「私にはもう『失ってしまったモノ』がある。だからいいのよ。まだあなたたちが失う番じゃないわ。」
紫は微笑みながら言った。
「じゃあ…」
輝夜は目を瞑り、精神を集中させた。雑念を取り払うと、周りは何も聞こえなくなった。徐々に木々の動きが緩慢になり、やがて動かなくなる。
目を開くと、紫はスキマを開いていた。とても大きな。
十分須臾が集まると、輝夜はそれを紫に向かって放出した。途端、周りが動き出す。
空にはたくさんのスキマが出来ていた。月は埋まりつつある。
空が割れる。そう思うほどスキマが開いたとき、突如として月が消えた。紫と一緒に。
輝夜の目に残るのは、ただただぼやけた視界に映る、紫の歪んだ顔だった。

東方永罪姫 -12.終-

「前の異変に続いて、また私たちの出番が少なかったわね。」
「ああ、そうだな。そのうち異変解決の仕事が回って来なくなりそうだ。」
「それは困る!」
霊夢と魔理沙がぼやく。
「まあ、こうして宴会が出来るのも幸せってもんだ。」
「でも時には異変でゴタゴタしてくれないと…神社が持たないわ。」
永遠亭の前はドンチャン騒ぎだった。月の民を追い払った記念の宴会と、永琳感謝パーティーが一緒くたになったものだ。
「でも何があったんだろうな。突然月の民が消えるなんて。」
「怯えて逃げ出したんじゃないの?あんたのマスタースパークにあたったりしたらたまらないからね。」
「へっ、霊夢の結界が硬いから諦めたんだろ。ありゃあ、硬すぎるぜ。」
二人はみんなの活躍ぶりについて話し込んでいた。
「紫が居れば、スキマ送りでチャチャっと済んだのにね。」
「あいつは重要なときにいないんだからな。どうせ今頃呑気に布団の中さ。」

遠くから聞いていた輝夜はため息を吐いた。
「どうしました?姫。」
永琳が聞く。
「いや、何でもないのよ?」
事実を知っている輝夜には、それを伝える勇気がなかった。
ふと、輝夜は空を見た。明るく輝く黄色のまん丸な月の後ろに、何か大きな影があった。
「何?あれ…」

大きな影は轟音を立てながら永遠亭へ近づいて行った。
「魔理沙、あれ…」
それは、巨大化した伊吹翠香だった。
「あれ~みんなで宴会?どう?私のいない宴会はさぞかし楽しいだろうね?」
「い、いや別に、そんなわけじゃ…」
「どういうわけなのよ?」
「あ、あの、月の民が襲って来て、幻想郷が危機で…」
「笑えない冗談は嫌いだよ…?」
翠香はニヤリと笑うと、大きく一歩踏み出した。
「「「うわ~!」」」
霊夢たちは一斉に逃げ出した。


「あんたは全部分かっていたんじゃないか?こうなることを。」
永遠亭の隅。一人の妖怪と一人の人間が話していた。
「君こそこの歴史を消す気はないのかい?慧音。」
慧音は答えた。
「ああ、さらさらない。私は消えていい歴史、なかった方が良かった歴史などないと考えている。そもそも歴史の良い悪いなど誰にも分からない。」
「じゃあ、俺も一緒だよ。俺には視えていた。この未来が。あくまで分岐の一つとしてな…。
俺は決して未来を語らない。もちろん、どの未来に分岐するかはっきりとは分からない理由もあるが、未来を決めつけることで、運命が変えられることを忘れてしまって欲しくない、というのが本心だ。」
「君らしい答えだな。」
少年は立ち上がり、言った。
「八雲紫…あんたはどう分岐するつもりだ…?」
永かった今夜が、ようやく終わる。


プロフィール

疾風ロケット

Author:疾風ロケット
疾風ロケットです!
このブログでは、東方の二次小説を書いていきたいと思ってます。まったりと書いていくのでよろしくです。
今は東方永夜抄のスペルカード集めをやっています。(ラストワードムズい・・・)
こんなダラダラ学生のブログですが、ちょくちょく小説を読みにきていただけると嬉しいです。あ、読んだらコメントくださいね?

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好きな東方キャラは諏訪子と咲夜さんです。

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